再登校事例

強いストレスと解離性障害による不登校 女子中学生SKさん Vol.11

「身体が動かなくなるんだ。」

(2010/8/18)
 
よく笑い、口げんかもできるほどSKは元気に。
 
夏休みなのも手伝ってお友達ともよく出かけ、遊びに来てもらったりするように。パニックになりかけても、自分で気分を落ちつけようと努力するようになった。
 
このまま9月には戻れるのでは?と錯覚を起こしそうになるが、並行してサポート校に相談。
 
サポート校の先生に訪問していただくことをお願いして、将来復学するにしても、今の学校以外に転校するか、サポート校に通う、という選択肢もあることをSKに示す。
 
学校に行けなくなってからチケットを取った観劇に行く。学校に近い会場だったので行けるか不安だったが、通学路を通り、久しぶりに外食。
 
引き続きお友達とは会うのだが、サポート校の先生には顔も見せない。SKの行動を理解できない父親ともめる。
 
父親の休みに二人で家にいたら足が痛くて動けなくなったらしく、私が帰ってきてもソファーに寝転んだままだったが、意を決して、
 
「学校に行けないのは行きたくないからじゃないんだよ。行けないのは体が動かなくなるんだ。わかってください。新井先生に会えないのも同じ感じなんだよ。お願いです。わかってください。」
 
と父親に訴えた。
 
このころには1日に2,3個の記憶除去をこなせるようになる。父親とよく話をするようになる。

解説

「学校に行けないのは行きたくないからじゃないんだよ。行けないのは体が動かなくなるんだ。わかってください」

ついに不登校児SKさん自身の口からこの言葉が出ました。最も重要な言葉です。

世のすべての人は、不登校児が「健康体なのになぜ身体が動かなくなるのか」が理解できません。

なぜ理解できないのか?
それは、「正しく理解するためのテンプレート(雛型)が頭の中にないから」です。

そこでむりやり理解するために、自分がわかるテンプレート「怠け」をあてはめてしまいます。

これは、たとえば1000年前の人がてんかん発作を見たら、「脳神経系の異常」などとは誰も思わず、「狐憑き」と考えたことと同じでしょう。

その時代の人には「脳神経系」という医学的テンプレート(概念)は存在しないからです。

ジャングルの未開の部族は、伝染病を「悪霊の仕業」と考えるといわれます。
「病原菌」「ウイルス」というテンプレート(概念)がないから、そう理解するしかないのです。

私が不登校児から信頼を得やすいのは、「原因と結果」を正確に理解し、子供たちが言いたくても言えなかったことを、私が目の前できちんと言語化して理論的に説明しているから、というのもあると思います。

つい先日も、初めてカウンセリングする親子との間でこんなやりとりがありました。

新井 「朝起きれないんだよね。起きないんじゃなくて。そういうときに起きろとか言われると、感情がコントロールできなくなるんだよね」
A君 「はい、そうです」
お父さん 「先生、じゃあ怠けじゃないんですか」
新井 「お父さん、そうなんです。怠けじゃないんです」

そして私が過去の記憶と睡眠サイクル(起床障害)の関係を説明すると、非常に納得されておられました。

実はお父さんご自身にも小学校高学年の時に同じ経験があり、やはり朝起きにくかったとのこと。当時お父さんは「自分が怠けてるのかな」と思っていたそうです。